福祉社会学会では、福祉社会学研究の一層の発展のために、福祉社会学会賞を設け、優れた研究業績を発表した会員を表彰しています。
学会賞選考委員会では、第7回福祉社会学会賞(学術賞および奨励賞)候補の推薦を受け付けます。以下の要領に従ってご推薦ください。自薦、他薦を問いませんが、各会員が推薦できるのは各賞につき一点以内です。会員の皆様の積極的なご協力をお願いします。なお、選考の結果は2023年度の福祉社会学会総会にて発表予定です。
<受賞資格者および受賞対象>
学術賞:受賞資格者は「すべて」の会員。受賞の対象は「単著の著書」。
奨励賞:受賞資格者は原則として「修士課程入学後13年以内」もしくは「博士課程入学後11年以内」の会員(授賞対象の刊行日を満期とする)。受賞対象は「単著の著書」あるいは「本学会誌または他の学会誌等に掲載された査読付の論文」。
<受賞対象の刊行日>
2021年1月1日より2022年12月31日の2年間に刊行された会員の著書および学術論文。
<推薦受付期間>
2023年1月9日から2023年2月10日まで。
<推薦方法>
学会賞推薦ページにログインして必要事項をご記入ください。なお、学術賞・奨励賞の有資格者であるかどうかについては、会員であるかどうかも含めて事務局で確認しますので、正確な情報がわからなくてもご推薦いただいてかまいません。
推薦方法等に関してご不明な点がありましたら、下記までお問い合わせください。
学会賞選考委員会(委員長・須田木綿子 yukosuda★toyo.jp←★を@に変えてください)
◆学術賞
井口高志『認知症社会の希望はいかに開かれるのか』晃洋書房, 2020年
◆奨励賞
(著書)
岡部茜『若者支援とソーシャル・ワーク』法律文化社, 2019年
税所真也『成年後見の社会学』勁草書房, 2020年
相良翔『薬物依存からの「回復」―ダルクにおけるフィールドワークを通じた社会学的研究』ちとせプレス, 2019年
(論文)
三枝七都子「喧嘩に耐え<ともに生きる>」『福祉社会学研究』17, 2020年
吉武理大「貧困母子世帯における生活保護の受給の規定要因」『福祉社会学研究』16,2019年
●選考理由
・学術賞 井口高志『認知症社会の希望はいかに開かれるのか』晃洋書房, 2020年
本書は、認知症ケアの先進事例、報道内容についての分析をまじえながら、認知症の人たちに対する理解と包摂の状況について丁寧に分析を行い、今後の理解と包摂の可能性を探るものである。問題がどのように生じたのか、どのような問題として理解すればよいのかという、理解社会学的に認知症にかかわる事象を解明しようとする立場に立っており、認知症の「進行」が包摂の実践プロセスにおいて未だ壁となっているという重要な知見を提示している。
また、特筆すべき点として、事例分析の実証的・理論的な議論の水準が極めて高いことがあげられる。ケア実践の思想、医療的知、ケア労働概念、制度政策、それぞれの時代的な背景とその変遷をふまえて、事例のもつ意義や課題を吟味し、「医療モデル」対「生活・関係モデル」といった理解図式をこえて中範囲での理論化を行う点、および具体的なレベルでの分析と、抽象化したレベルでの理論化が巧みに接続されている点で、福祉社会学の範型となる作品である。
・奨励賞(著書)岡部茜『若者支援とソーシャル・ワーク』法律文化社, 2019年
本書は「若者」の生活困難に焦点をあて、ソーシャル・ワークの対象可能性について論じており、新たなテーマ設定にもとづく研究として高い意義を有している。特に第T部については、若者が経験する困難について、既存の言説批判(稼働能力と家族扶養を期待することの危険性)も含めて検討し、生活保障への視点の弱さから、これらの困難に対応できていない日本の若者支援策の課題を明らかにしている。続く第U部では若者ソーシャル・ワークの要点として、社会福祉法人一麦会の実践と韓国の実践を通し、「自立」か「保護」ではない、依存の度合いをその時々に合わせて調整しながら関わっていくことのできる取り組みを提案している。この「依存の選択可能性」の保障という論点は魅力ある内容であるが、実証分析が二つの実践事例であり、提唱するための根拠としては弱い点も見られた。今後の研究の展開に期待したい。
・奨励賞(著書)税所真也『成年後見の社会学』勁草書房, 2020年
成年後見制度が社会に定着し、普及していく中でそれが人々によってどのように利用され、そのことが制度自体にどのような影響を与えているかをフィールドワークや事例研究などから多角的に明らかにした社会学的な制度研究である。成年後見制度は家族をもたない高齢者および認知症者の増加などを背景として、財産管理と身上監護の両面について第三者が本人にかわって選択・決定する制度である。何が本人にとって望ましいかを決定することは簡単ではなく、後見人の判断のみに任せるのは危険であり、本人とかかわりあう複数の人々が協議する中で本人の処遇を決定していくことが望ましいことが事例研究から明らかにされる。また、後半は生協による成年後見を通じて、時間をかけて処遇を関係者が協議するという方法に高い評価が与えられている。法学や社会福祉学までひろく関連する研究を押さえながら長い時間かけて成年後見制度と格闘した、文字通りの労作といえる。
・奨励賞(著書)相良翔『薬物依存からの「回復」―ダルクにおけるフィールドワークを通じた社会学的研究』ちとせプレス, 2019年
本書は2つのダルクの入所者に対するインタビューデータを用いた薬物依存からの回復に関する社会学的な研究成果である。研究の背景、研究の枠組み、調査の手続きと分析、いずれも丁寧に記述されている。筆者の結論は、「ダルクにおける薬物依存からの『回復』とは何かによって生かされているという感覚の中での自己を(再)構成するプロセスである」というもので、自分で生きることではなく、生かされていることを支えることができる社会を構想することの重要性を指摘している。6年間を超えるフィールドワークを通して得られた31人からのインタビューデータに基づく豊かなナラティブを用いてダルクの核となる考え方を記述した労作である。また、帰納的なプロセスから導かれた考察を、社会理論を参照して演繹的に説明している点は本書の結論の説得力を高めている。
・奨励賞(論文)吉武理大「貧困母子世帯における生活保護の受給の規定要因」『福祉社会学研究』16,2019年
本論文は、貧困母子世帯が貧困であるにもかかわらず生活保護制度の利用を控えるのはなぜなのか、を明らかにするために、公開データ(内閣府「親と子の生活意識に関する調査」)を用いて計量的に検討したものである。生活が困窮しているにもかかわらず、権利としての生活保護を受給しない・できない状況は問題であり、本研究の位置づけは重要である。分析では母子世帯の母親が抱く自立や自助への価値意識を内的統制傾向として変数化し、内的統制傾向が生活保護の受給に及ぼす逆機能的影響を明らかにしている。計量的な先行研究が少ない中、先行研究で理論的に指摘されてきた仮説を手堅い方法で検証した意義は大きい。さらに自助が強いられる社会にあって、内的統制傾向の効果に注目した研究課題設定の独自性についても、高く評価できる。
・奨励賞(論文)三枝七都子「喧嘩に耐え<ともに生きる>」『福祉社会学研究』17, 2020年
本論文は、共生型のデイサービスにおける利用者と施設職員の間におこる喧嘩を題材に、参与観察とインタビューから、利用者と施設職員の間の非対称的な関係性のあり様に注目するものである。約10ヶ月に及ぶフィールドワークを通して、部外者にはなかなか見せることがないであろうデイサービスにおける日常の様子を詳細に観察し描き出しており、従来のケア労働にはない支援関係における新たな地平を提示している。地域共生社会のもつ予定調和的な共生関係に対して、喧嘩という切り口から、喧嘩という必ずしも望ましくない状態さえも受け入れて〈ともに生きる〉関係を構築することが地域共生社会にとって重要であることを指摘している点も独自性があり興味深い論考である。
第5回受賞者・対象作品
学術賞
株本千鶴,2017,『ホスピスで死にゆくということ―日韓比較からみる医療化現象』東京大学出版会.
野辺陽子,2018,『養子縁組の社会学―〈日本人〉にとって〈血縁〉とはなにか 』新曜社.
奨励賞
著書
米澤旦,2017,『社会的企業への新しい見方―社会政策のなかのサードセクター』ミネルヴァ書房.
桜井啓太,2017,『〈自立支援〉の社会保障を問う―生活保護・最低賃金・ワーキングプア』法律文化社.
論文
池田裕,2018,「一般的信頼と福祉国家への支持―ISSPのデータを用いたマルチレベル分析」『福祉社会学研究』15:165-187.
第4回受賞者・対象作品
学術賞
森川美絵,2015,『介護はいかにして「労働」となったのか―制度としての承認と評価のメカニズム』ミネルヴァ書房.
奨励賞
著書
濱西栄司,2016,『トゥレーヌ社会学と新しい社会運動理論』新泉社.
論文
税所真也,2016,「『成年後見の社会化』からみるケアの社会化―士業専門職化が及ぼす家族への影響」『家族社会学研究』28(2):148-160.
第3回受賞者・対象作品
学術賞
丸山里美,2013,『女性ホームレスとして生きる―貧困と排除の社会学』世界思想社.
大岡頼光,2014,『教育を家族だけに任せない―大学進学保障を保育の無償化から』勁草書房.
奨励賞
著書
秋風千恵,2013,『軽度障害の社会学―「異化&統合」をめざして』ハーベスト社.
深田耕一郎,2013,『福祉と贈与―全身性障害者・新田勲と介護者たち』生活書院.
論文
三谷はるよ,2014,「『市民活動参加者の脱階層化』命題の検証―1995年と2010年の全国調査データによる時点間比較分析」『社会学評論』65(1):32-46.
第2回受賞者・対象作品
学術賞
須田木綿子,2011, 『対人サービスの民営化―行政-営利-非営利の境界線』東信堂.
奨励賞
平野寛弥 ,2012,「社会政策における互酬性の批判的検討」『社会学評論』 63(2) :239-255.
山本馨 ,2011,「地域福祉実践の規模論的理解―贈与類型との親和性に着目して」『福祉社会学研究』8:85-104.
第1回受賞者・対象作品
学術賞
三重野卓,2010,『福祉政策の社会学―共生システム論への計量分析』ミネルヴァ書房.
奨励賞
著書
菊池いづみ,2010,『家族介護への現金支払い―高齢者介護政策の転換をめぐって』公職研.
前田拓也,2009,『介助現場の社会学―身体障害者の自立生活と介助者のリアリティ』生活書院.
論文
石橋潔,2010,「表情を交わし合う相互行為―行為論およびケアとの関連において」『福祉社会学研究』7:73-98.